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大分地方裁判所 昭和43年(行ウ)12号 判決

原告 児玉誠

被告 熊本国税局長

訴訟代理人 上野国夫 外五名

主文

本件公売処分の無効確認請求を却下する。

本件公売処分の取消請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

一、原告

1. 本位的請求

被告が昭和四三年八月三〇日別紙目録(一)記載の各土地についてなした本件公売処分は無効であることを確認する。

2. 予備的請求

被告が昭和四三年八月三〇日別紙目録(一)記載の各土地についてなした本件公売処分を取消す。

3. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1. 本案前の申立

本件訴をいずれも却下する。

2. 本案に対する申立

原告の請求をいずれも棄却する。

3. 訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

一、原告の請求原因

1. 訴外佐伯税務署長は昭和四〇年一二月八日別紙目録(一)記載の各土地を原告の昭和四〇年度分所得税の滞納処分として差押えた。

その後、被告は、右税務署長から徴収の引継ぎを受け、昭和四三年八月一七日本件各土地を山林と表示した公売公告をなし、同月三〇日の公売期日に訴外川野仙次郎を本件各土地の最高価申込者と決定した。

2. ところで、本件各土地は従前は野菜畑であつたものを徐々に果樹畑に変えてきたものである。そこで、本件公売処分当時、本件各土地上には、五年ないし三〇年生の柿約二〇数本、栗、三〇年ないし五〇年生のもの約七〇本、一〇年生ぐらいのもの約一〇本、五年生以上一〇年生未満のもの約二〇本が本件各土地上全体にくまなく適当な間隔をおいて植樹されていたが、右各果樹は原告において肥培管理してきたものである。

3. しかるに、被告は、昭和四二年一一月二七日原告に代位して畑と表示されていた本件各土地の地目を山林と変更したえ、前記のとおり山林として公売に付し、農地である本件各土地の買受適格者でもなく、また、県知事の買受適格証明も持たない前記訴外人を最高価申込者と決定したうえ、同人に対し、売却決定をした。

4. しかし、請求原因2.記載のとおり本件各土地は農地なのであるから、買受適格者でもなく、また、買受適格証明も持たない右訴外人に対する本件公売処分は違法であり、無効である。よつて、本位的に本件公売処分の無効確認を請求し、なお、仮に右違法が本件公売処分の無効原因にはならないとしても取消原因にはなると考えられるから、予備的に本件公売処分の取消を求める。

二、被告の主張

1. 本案前の抗弁

(一)  無効確認の訴について

行政事件訴訟法三六条によれば、無効確認の訴は、当該処分により損害を受けるおそれのある者あるいは当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の存否又はその無効を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができないものに限り、提起することができるとされている。

ところで、本件公売処分については、すでに全手続が終了し、前記訴外人への所有権移転登記手続および引渡が完了しているので、本件公売処分の続行処分ということは考えられない。

また、原告において、本件各土地に対する権利を主張したいのならば、端的に右訴外人を相手方として所有権確認請求あるいは所有権移転登記の抹消登記手続を請求するなどの方法によりこの目的を達しうるのである。

よつて、原告は本件公売処分の無効確認訴訟を提起するについて原告適格を有しないと考えられるから、主文第一項のとおりの裁判を求める。

(二)  取消の訴について

行政事件訴訟法一四条によれば、行政処分取消の訴は、行政処分に対し審査請求をしたときは、その裁決のあつたときから三ケ月以内に提起しなければならないと定められている。

ところで、本件公売処分に対する異議申立棄却決定が原告に送達されたのは昭和四三年一二月二五日である。そうすると、本件取消請求訴訟の出訴期間の終期は昭和四四年三月二五日である。

ところが、原告が、被告を国として本件各土地が農地であることの確認を求める訴を昭和四三年一二月二六日に提起していたものを、本件公売処分無効確認および取消の訴に訂正したのは、昭和四四年六月一八日付書面においてであり、被告を国から熊本国税局長に訂正したのは同年六月二五日付書面においてである。

右の事情からすると、本件公売処分取消の訴の出訴期間の関係では、本件訴が取消の訴に訂正せられた昭和四四年六月一八日に取消訴訟の提起があつたものというべきである。

そうすると、本件取消の訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴ということになるから、本件取消の訴の却下を求める。

2. 請求原因に対する被告の答弁

請求原因1.3.の事実を認め、同2.の事実を否認する。

3. 被告の主張

(一)  原告は昭和四〇年一二月八日の時点において所得税本税三、八五〇、四四〇円、加算税一、九二四、五〇〇円、旧利子税一九四、〇一〇円、滞納処分費五六〇円の合計金五、九六九、五一〇円の国税を滞納していた。

(二)  そこで、佐伯税務署長は原告主張の日時に本件各土地ほか一八筆の不動産を右国税の滞納処分として差押えた。

(三)  その後、被告は右税務署長から右国税徴収の引継ぎを受けたので、所属の徴収職員に命じて昭和四二年一〇月一八日本件各土地の現況を実地に調査させた。すると、本件各土地上には柿と栗の老木若干数がみられたが、本件各土地上の大部分には杉が植林され、一部は竹林となつており、現況は山林であることが判明した。

(四)  そこで、被告は、佐伯市農業委員会に対し本件各土地の現況が山林であることの証明を求め、同委員会から昭和四二年一一月七日付の証明書の交付を受けた。そこで、被告は同月二七日代位により大分地方法務局佐伯支局に畑から山林への地目変更の登記を嘱託し、同月二九日右変更の登記を了した。

(五)  次いで、被告が、原告主張の日時、内容の公売公告および公売の執行をなしたところ、訴外川野仙次郎が本件各土地を含む五筆の土地について最高価の金二五一、〇〇〇円で入札したので、同日同人を最高価申込者と決定した。

(六)  ところが、原告は、昭和四三年八月三一日前記公売処分に対して異議申立をなし、本件公売処分には本件各土地が畑であるのに山林として公売された違法があるなどと主張し、ほどなく、昭和四三年九月二日付佐伯市農業委員会の本件各土地が畑であることの証明書を提出した。

(七)  そこで、被告は公売処分の続行を停止し、担当係官をして昭和四三年九月二六日本件各土地の現況を再調査させたところ、本件各土地上には杉立木一四六本、樫立木六〇本、雑木一二本および栗立木九六本、柿立木二一本、が確認され、新しい杉の切株七四個、松の切株一個が発見された。

この切株について調査したところ、これは原告が公売期日である同年八月三〇日の午後か翌八月三一日に本件各土地上に生育する杉および松の立木を伐採した伐痕であることが判明した。

また、本件各土地上の栗、柿の現況は植林された杉の立木の間に自然の生育のままに放置されていたものである。

本件各土地の現況は右のとおりであつて、本件各土地はいずれも栗畑あるいは柿畑としての肥培管理は行なわれてはおらず、本件各土地は農地とは認められなかつた。

そこで、被告は滞納処分の続行を開始し、前記訴外人に売却する旨の決定をなし、その旨の所有権移転登記を了した。

(八)  以上の次第で、被告が本件各土地を山林として公売したことにはなんら違法性は存在しない。

よつて、原告の本件請求はいずれも棄却されるべきである。

4. 被告の主張に対する原告の答弁

被告主張の(二)、(四)ないし(六)の事実を認め、その余の事実は否認する。

(証拠)省略

理由

一、まず、被告の本案前の抗弁について検討する。

1. 本件無効確認の訴については原告に原告適格がないとの主張について。

本件無効確認請求の訴において原告の主張するところは前記事実摘示のとおりである。

ところで、行政事件訴訟法三六条によれば、行政庁を相手方として行政処分の無効確認訴訟を提起しうるのは、無効と主張する行政処分またはそれに続く処分により損害を受けるおそれのある者等処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者が、無効と主張する現在の法律関係に関する訴訟によつて目的を達することができない場合に限られている。

これを本件についてみると、〈証拠省略〉および弁論の全趣旨によれば、本件各土地に対する公売処分手続は既に終了して、本件各土地の所有権の登記名義は訴外川野仙次郎に移転し、その続行処分というものは考えられないことが明らかである。そうすると、前記原告主張のような場合には、本件公売処分の無効を前提として現在の登記名義人である右訴外人を相手方として訴を提起し、本件各土地について所有権確認、所有権移転登記手続等を求めればたり、本件公売処分の無効確認を求めることは許されない。したがつて、原告の無効確認請求の訴は不適法なものといわなければならない。

2. 本件取消の訴は出訴期間経過後に提起されたとの主張について。

〈証拠省略〉および弁論の全趣旨によれば、本件各土地の公売期日は昭和四三年八月三〇日に開かれ、同日被告が前記訴外人を最高価申込者と決定したところ、翌三一日付で原告から右決定に対して異議申立がなされたこと、右異議申立に対し被告は同年一二月一九日付で異議申立棄却決定をなし、同決定は同月二五日原告に送達されたことが認められる。

そうすると、本件取消請求の訴の出訴期間は昭和四四年三月二五日をもつて満了したことになる。

ところで、原告は、昭和四三年一二月二六日、被告を国、本件における被告熊本国税局長を右被告国の指定代理人と表示し、請求の趣旨を「本件各土地が農地であることを確認する。」旨記載した訴状によつて本件訴を提起し、出訴期間内である昭和四四年三月一七日、被告の変更許可決定申立書と題する書面を提出し、同書面において被告を国から熊本国税局長に変更することの許可を求めるとの記載をなし、同年六月一九日「請求の趣旨並びに請求の原因の訂正申立書」と題する書面を提出して右請求の趣旨を前記事実摘示のとおり訂正したこと、次いで、同年七月一六日の本件第一回口頭弁論期日において、前記被告変更の申立は被告訂正申立の趣旨である旨釈明したことが記録上明らかである。

右訴状における被告の表示、請求の趣旨の記載文言は前記のとおりであるが、同訴状全体の記載を合理的に解釈すると、原告は当初から行政庁たる被告を相手方として本件公売処分の無効確認を求めて出訴したものであつて、前記被告変更の申立書は前記訴状における被告の表示を訂正する趣旨で提出されたものと解するのが相当である。

しかして、行政処分取消訴訟の出訴期間内に提起された行政処分無効確認請求はその取消請求を包含しているものと解すべきである。

したがつて、これを本件についてみるに、前記のとおり、原告は昭和四三年一二月二六日本件公売処分の無効確認請求の訴を提起し、昭和四四年六月一九日に取消請求の訴を予備的に追加したのではあるが、取消の訴も昭和四三年一二月二六日に提起され、その出訴期間は遵守されたものと解すべきである。

二、そこで、取消請求の本案について検討する。

1. 〈証拠省略〉によれば、原告が被告主張のとおり国税を滞納していたことを認めることができる。

2. 訴外佐伯税務署長が昭和四〇年一二月八日本件各土地等を右国税の滞納処分として差押えたこと、被告が同税務署長から徴収の引継ぎを受けたこと、本件各土地の地目が被告主張の経過で畑から山林に変更されたこと、被告が原告主張の日時、同内容の公売公告および公売の執行をなし、買受適格証明を持たない訴外川野仙次郎が最高価申込者と決定されたこと、右に対し、原告が農地として公売すべきものを山林として売却したとの違法があるとの理由で異議申立をしたことは当事者間で争いがない。

3. そこで、本件公売処分当時本件各土地の現況が農地でなかつたか否かについて検討することとする。

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき〈証拠省略〉によれば、被告は本件各土地を公売処分に付するについて見積価格を決定する必要から国税徴収官に命じて昭和四二年一〇月一八日本件各土地の現況調査をさせたところ、本件各土地上には栗の幼木から老木まで合わせて一〇〇本余、柿の木若干が散在していたが、それらはいずれも雑木や植林された杉立木の間に自然の生育のままに放置されている一方、本件各土地の大部分の地域には杉が植林され、一部は竹林および雑木林となつており、したがつて、本件各土地は肥培管理のほどこされている果樹園という状況ではなかつたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。

次に、〈証拠省略〉によれば、訴外川野仙次郎が本件公売期日である昭和四三年八月三〇日の朝、訴外新名達雄が本件公売期日の数日前に、それぞれ本件各土地の競争入札に参加するについてその下調べのため本件各土地の状況を実地調査したところ、本件各土地の状況は前記国税徴収官の現認したところとほぼ同様であつたことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

ところが、〈証拠省略〉によつて昭和四三年九月二六日本件各土地の状況を撮影したものと認められる〈証拠省略〉によれば、右両証人らが同月二六、二七日の両日にわたつて本件各土地の現況を調査したところ、本件各土地上の栗および柿の木の所在およびその生育状況は前記国税徴収官の現認したところとほぼ同様であつたが、新たに四、八三三番地に散在する栗の木の周辺何ケ所かにわたつて真新しい杉の木の伐痕約七〇本余が発見され、その伐採痕の分だけ杉の立木が間引きされていたとの事実が認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

さらに、検証の結果によれば、昭和四五年六月二七日の時点における本件各地上の状況は次のとおりである。

本件各土地上には、栗の木約百本余が存在するが、そのうち約七〇本くらいは四、八三三番の地の周辺部の雑木の間に点在しており、その余のものにしても、主として四、八三三番の地内で、いずれも自然の生育のままに放置されている。また、本件各土地上には柿の木二〇数本が散在するが、いずれも本件各土地の中央部には存在せず、四、八三三番の地の周辺部の雑木の中で自然の生育のままに放置されている。

四、八三四番の地は現に全域杉林である。

四、八三三番の地の周辺寄りの部分には高さ約三メートルくらいの杉の立木が約二ないし三メートル間隔に整然と生立しており、同地のその余の部分ほぼ全域には、東西南北ほぼ二ないし三メートルの等間隔おきに直径二ないし一五センチメートルの杉の伐痕約一七〇本余が存在する。

以上の事実を認めることができ、前認定の事実を総合すると、本件各土地は本件公売公告、公売期日のころまではその現況は明らかに杉林であつたが、それを本件公売期日以降に何人かが本件各土地上の杉立木一七〇本余を伐採して本件各土地が栗および柿の果樹園らしくみえるよう作為したものの、本件公売期日当時本件各土地は果樹園としての肥培管理は全然行なわれてはいなかつた事実を推認することができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は信用できず、また、〈証拠省略〉は右認定のさまたげとならず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

4. そうすると、被告が本件各土地を山林として公売した処分にはなんら違法な点はなく、原告の主張は理由がない。

三、以上の理由により、原告の被告に対する請求中、本件公売処分の無効確認の請求は不適法として却下すべく、同処分の取消の請求は理由がないから失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良 阿部功 浜井一夫)

別紙目録〈省略〉

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